「今期は利益が出そうだから、保険で何とかならない?」。決算前の社長からこう相談されたとき、どう答えていますか。
保険料が経費になる、だから税金が減る。この説明だけで提案すると、社長はいずれ「結局、戻ってきたお金にも税金がかかった」と気づきます。経営者に選ばれるFPは、税金ではなく現金の流れから話します。
この記事のポイント
- 最高解約返戻率が50%を超える長期の定期保険などは、保険料の一部を資産に計上する
- 「節税」は今年の税金を減らすだけで、現金は出ていき、税は将来にずれる
- 法人保険は、資金ギャップの時期と金額から逆算して提案する
法人保険の保険料は、全額経費になる?
法人が契約者となり、役員や従業員を被保険者とする定期保険・第三分野保険のうち、令和元年7月8日以後の契約で、保険期間が3年以上かつ最高解約返戻率が50%を超えるものは、保険料の一部を資産に計上します。
最高解約返戻率とは、保険期間を通じて解約返戻率が最も高くなる時期の、その割合です。解約返戻率は、契約時に示された解約返戻金相当額を、それまでに払う保険料の合計で割って求めます。
最高解約返戻率で、何が変わる?

返戻率が高いほど、経費にできる割合は小さくなります。
| 最高解約返戻率 | 資産に計上する額 | 資産に計上する期間 |
|---|---|---|
| 50%超70%以下 | 支払保険料の40% | 保険期間の開始から、保険期間の40%に当たる期間まで |
| 70%超85%以下 | 支払保険料の60% | 同上 |
| 85%超 | 支払保険料×最高解約返戻率の70%(開始から10年間は90%) | 開始から、最高解約返戻率となる期間の終わりまで(例外あり) |
資産に計上した額は、後の期間に取り崩して経費にします。また、最高解約返戻率が70%以下で、かつ年換算保険料相当額が被保険者1人当たり合計30万円以下の場合は、この資産計上の対象になりません。
「節税」は、実際に何をしている?

最高解約返戻率が70%超85%以下の保険に、年300万円の保険料を払う場合で考えます。資産計上の期間中は、180万円(60%)が資産、120万円(40%)が経費です。
保険料300万円 − 36万円 = 実質的な負担264万円
税負担が36万円減るため、実質的な負担は264万円です(税率30%と仮定した単純計算)。資産に計上した180万円は、将来、解約返戻金として戻る可能性があります。
そして、解約返戻金を受け取ったときは、資産に計上していた額との差額を益金(返戻金が少なければ損金)として処理します。税金は消えたのではなく、時期がずれただけです。この構造を正直に伝えられるかどうかで、社長の信頼は分かれます。
実際の税率や損金の額は、会社の状況と契約内容によって変わります。税額の判断は、必ず顧問税理士と確認してください。
では、法人保険は何のために使う?

4つの資金ギャップで整理したとおり、法人保険の役割は、もしものときの資金ギャップを埋めることです。「いつ・いくら現金が要るか」から逆算すると、保険の役割がはっきりします。
- 死亡時に要るお金(借入の返済、死亡退職金、清算費用)は、死亡保障で用意する
- 生前に要るお金(勇退時の退職金、自社株の買取り)は、解約返戻金で準備し、返戻金のピークを使う時期に合わせる
- 解約返戻金は、急な資金不足のときの流動性にもなる
この順番で話せば、「節税になるから」ではなく、「この時期にこの金額が要るから」という理由で保険が選ばれます。決算前の相談にも、まず資金繰り表で今期と来期の現金を一緒に確かめるところから入れます。
社長への質問の例
「節税で減る税金より、会社から出ていく現金のほうが大きくなります。いつ、何のためにお金が要るかから一緒に考えませんか」
よくある質問
- 令和元年7月7日以前に契約した保険も、この扱いになりますか?
- この資産計上の扱いは、令和元年7月8日以後の契約が対象です。それ以前の契約は、従来の取扱いによります。
- 医療保険などの第三分野保険も対象ですか?
- 第三分野保険も対象に含まれます。保険期間が終身のものは、被保険者が116歳に達する日までを計算上の保険期間とします。
- 社長に「節税の保険はないの」と聞かれたら?
- 税金が減る分と会社から出ていく現金を並べて見せ、現金の話に置き換えて答えます。
根拠資料
- 国税庁「No.5364 定期保険及び第三分野保険の保険料の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」(令和8年4月1日現在法令等):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364.htm
- 国税庁「No.5364-2 定期保険及び第三分野保険の保険料(保険料に相当多額の前払部分の保険料が含まれる場合)の取扱い(令和元年7月8日以後契約分)」(令和8年4月1日現在法令等):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5364-2.htm
- 国税庁「定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ」:https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/teikihoken_FAQ/index.htm

