「保険はいくら必要ですか」と社長に聞かれて、根拠のある金額を答えられるでしょうか。
必要な保障額は、保険の側からではなく、会社の決算書から決まります。社長に何かが起きたとき、会社に開く資金の穴を「資金ギャップ」と呼び、4つに分けて考えます。
この記事のポイント
- 資金ギャップは、もしものときに必要なお金から手元のお金を引いた差
- 病気・死亡・事業承継・清算の4つを、決算書の数字から金額にする
- お金が要る時点で保険の種類が決まる。生前の廃業は保険の外にあると正直に伝える
資金ギャップとは何か?

社長の「もしも」は、病気、死亡、事業承継、清算の4つに分けられます。どれにも共通するのは、必要な瞬間にまとまった現金が要ることです。そして多くの中小企業では、手元の現金がそれに届きません。
前回の記事で使った架空のモデル会社(売上高3億6,000万円、粗利率30%、固定費は月735万円、現金2,600万円、借入金8,000万円)で、4つのギャップを金額にしていきます。
社長が病気で動けないと、いくら足りなくなる?

社長が入院しても、固定費は止まりません。売上の減り方と、仮に月159万円とした借入元本の返済から、毎月の資金の流出を計算します。売上が何割減るかで、現金の持つ期間が大きく変わります。
| 売上の減り方 | 月の粗利 | 固定費との差 | 返済を含む月の流出 | 現金2,600万円が持つ期間 |
|---|---|---|---|---|
| 2割減 | 720万円 | ▲15万円 | ▲174万円 | 約15か月 |
| 3割減 | 630万円 | ▲105万円 | ▲264万円 | 約10か月 |
2割と3割の違いで、15か月と10か月に分かれます。立て直しに6〜12か月かかると見るなら、固定費だけで4,410万〜8,820万円が必要です。
社長が亡くなると、何が一度に動く?
社長が亡くなると、取引先や金融機関の信用が揺らぎ、借入の返済を求められる場面も出てきます。遺族には退職金を払いたい。社長が会社に貸している役員借入金1,500万円は、額面のまま相続財産になります。
モデル会社では、固定費6〜12か月分と借入金8,000万円への備えを合わせると、1億円前後の資金が必要になる計算です。手元の2,600万円と、すでに加入している保険を差し引いた残りが、手当てすべきギャップです。
社長への質問の例
「この借入には、社長の保証が付いていますか」
「株主は、社長おひとりですか」
事業承継と清算にも、現金が要る?
事業承継では、自社株を後継者に渡すための納税資金や、株を買い取る資金、ほかの相続人との公平を保つための資金が必要です。純資産が厚い会社ほど株の評価は重くなり、必要な現金も増えます。
「最悪、畳めばいい」という清算も、簡単ではありません。機械や建物は帳簿の金額では売れず、撤去に費用がかかることもあります。売掛金も満額では戻りません。借入の返済、従業員の退職金、清算までの固定費をまかなう現金が要ります。
保険の種類は、どう決まる?

お金が要る時点が「生前」か「死亡時」かで、保険の種類はほぼ決まります。
| ギャップ | お金が要る時点 | 手当ての考え方(一般的な種類) |
|---|---|---|
| 病気 | 生前・働けない間 | 就業不能保障や特定疾病の一時金、すでに貯まっている解約返戻金 |
| 死亡 | 死亡時 | 定期保険(借入の減り方に合わせて逓減型・収入保障型も)、退職金には終身保険 |
| 事業承継 | 生前の引き継ぎ時と死亡時 | 生前は解約返戻金で準備し、死亡時は死亡保険金で納税・買取資金を用意 |
| 清算 | 主に死亡時 | 死亡保障で返済・退職金・清算費用を用意 |
注意したいのは、生前に会社を畳む場合は、保険で手当てしにくいギャップだという点です。解約返戻金が原資の一部になることはあっても、本質は会社に体力があるうちの経営判断です。保険で何でも埋められるように話すと、社長の信頼を失います。
個別の保険会社・商品の比較や、支払事由の細かな違いは、必ず最新の約款と資料で確認してください。
よくある質問
- ギャップの金額は、毎年見直す必要がありますか?
- 決算のたびに見直すのが理想です。現金や借入の残高が変われば、ギャップの大きさも変わります。
- 死亡保険金を法人で受け取ると、税金はかかりますか?
- 法人が受け取る死亡保険金は、原則として益金になります。資産に計上している保険料がある場合は、その額を取り崩した差額が益金です。税負担を見込んで金額を考える必要があり、具体的な税額は顧問税理士と確認してください。
- 死亡退職金には非課税の枠がありますか?
- 相続人が受け取る死亡退職金には、相続税で「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があります。法定相続人の数え方には、養子の数の制限などのルールがあります。また、相続人以外の人が受け取った分は非課税の対象になりません。
根拠資料
- 国税庁「No.4117 相続税の課税対象になる死亡退職金」:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4117.htm
- その他の数字は、架空のモデル会社による説明用の試算です

