社長との面談で、思い切って「決算書を見せていただけますか」とお願いできた。ところが、受け取った瞬間に頭が真っ白になる。数字の多さに圧倒され、結局「ありがとうございます、持ち帰って確認します」で終わってしまう。法人のお客様を担当し始めたFPの方から、よく聞く場面です。
決算書は、最初から全部を読む必要はありません。面談の最初の5分で見る場所を3つに絞り、そこから「質問」を持ち帰れれば十分です。この記事では、その3つの場所と、社長に投げかける質問の例をお伝えします。
この記事のポイント
- 最初に見るのは「純資産」「現金・預金」「役員との貸し借り」の3か所
- 数字から結論を出すのではなく、社長に聞く「質問」を見つける
- 役員との貸し借りは、法人税の申告書に付ける内訳書で確認できる
なぜ「全部読む」より「3か所だけ見る」のか
FPが決算書を見る目的は、税務の正しさを確かめることではありません。会社のお金の状態について仮説を立て、社長との会話を深めることです。
全部を読もうとすると時間がかかり、面談の場で何も聞けなくなります。反対に、見る場所を決めておけば、5分でも「この会社のことをもっと知りたい」という質問が生まれます。社長にとっても、数字をもとに質問してくるFPは、商品の話から入る営業担当とは違って見えます。
1か所目:純資産で、会社がこれまでに積み上げた体力を見る
貸借対照表の右下にある「純資産」は、会社がこれまでに積み上げてきた体力を表します。あわせて見たいのが「自己資本比率」です。財務省の法人企業統計の解説では、次の式で定義されています。
中小企業では新株予約権がないことが多いため、実際には「純資産 ÷ 総資本」で見当をつけられます。この比率が高い会社は、借入に頼らずに資産をまかなえている割合が大きいと読めます。
ただし、数字だけで良し悪しを決めつけないことが大切です。同じ比率でも、利益を毎年積み上げてきた会社と、増資で一気に厚くした会社とでは、意味が違います。
社長への質問の例
「ここまで純資産を積み上げてこられたのは、どの時期の頑張りが大きかったのですか」
2か所目:現金・預金を、毎月の売上と比べてみる
次に、貸借対照表の左上にある「現金及び預金」を見ます。ここで役立つのが、年間の売上高を12で割った「1か月あたりの売上」と比べる見方です。手元の現金・預金が、売上の何か月分にあたるかがわかります。
どのくらいあれば安心かは、業種や入金のタイミング、季節による波で大きく変わります。ですから、ここでも結論を出す必要はありません。大切なのは、社長が「いくらあれば安心か」をどう考えているかを聞くことです。その答えに、保障や資金準備の話につながる本音が隠れています。
社長への質問の例
「売上が一時的に止まったとしたら、何か月くらいは今の体制を維持したいとお考えですか」
3か所目:役員との貸し借りを、内訳書で確かめる
3か所目は、社長個人と会社とのお金の貸し借りです。決算書の貸借対照表では「借入金」や「貸付金」とまとめて書かれていても、法人税の申告書に付ける「勘定科目内訳明細書」を見ると、相手先がわかります。
国税庁の e-Tax で公開されている記録の項目を見ると、「借入金及び支払利子の内訳書」と「貸付金及び受取利息の内訳書」には、相手先の名称と並んで「法人・代表者との関係」という欄があります。さらに借入金の内訳書については、借入先が役員・株主・関係会社の場合、期末の残高が50万円未満であってもすべて個別に記録するよう求められています。
社長から会社への貸付(会社から見れば役員からの借入)が大きい場合は、会社の資金繰りを社長個人が支えてきた歴史が見えてきます。これは相続や事業承継を考えるときにも、避けて通れないテーマです。
社長への質問の例
「社長から会社にお金を入れてこられた時期があるようですが、そのときはどんな状況だったのですか」
数字は答えではなく、質問のきっかけにする
3か所を見たら、その場で「御社は大丈夫です」「危ないです」と判断を伝える必要はありません。FPに求められているのは、数字の裏にある社長の考えや経緯を引き出すことです。
私自身、会計や財務を学ばないまま事業を広げ、大きな失敗を経験しました。あのとき、数字をもとに「社長、これはどういう意図ですか」と聞いてくれる人が隣にいたら、と今でも思います。決算書を前にして質問できるFPは、社長にとって貴重な相談相手になれます。
よくある質問
- 決算書は、何期分をお願いすればよいですか?
- 1期分だけでは、たまたま良かった年なのか、続いている傾向なのかがわかりません。可能であれば3期分をお願いすると、数字の流れが見えてきます。
- 勘定科目内訳明細書は、決算書と一緒にもらえますか?
- 内訳書は法人税の申告書に付ける書類のため、決算書だけを渡される場合もあります。「借入金と貸付金の内訳もあわせて拝見できますか」と、目的を添えてお願いするとスムーズです。
- 自己資本比率は何%あれば安心ですか?
- 業種や会社の成長段階によって適正な水準は変わるため、一つの数字で判断するのはおすすめしません。同業他社や、その会社の過去の推移と比べて見ることが大切です。
根拠資料
- 財務省 財務総合政策研究所「財務指標の例⑨ 自己資本比率」:https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/zaimu/zaimu01_09.pdf
- 国税庁 e-Tax「勘定科目内訳明細書の標準フォーム等(令和6年3月1日以後終了事業年度分)」:https://www.e-tax.nta.go.jp/hojin/gimuka/csv_jyoho2_meisai_20240325a.htm
- 同「レコードの内容及び留意事項(⑪借入金及び支払利子の内訳書)」:https://www.e-tax.nta.go.jp/hojin/gimuka/csv_jyoho1/10/HOI110.pdf
- 同「レコードの内容及び留意事項(④仮払金(前渡金)の内訳書/貸付金及び受取利息の内訳書)」:https://www.e-tax.nta.go.jp/hojin/gimuka/csv_jyoho1/10/HOI040.pdf

